古酒・熟成酒・貴醸酒

◆古酒・熟成酒
古来、日本人は、日本酒を何年も寝かせて熟成させた「古酒」を楽しんで来ました。

たとえば鎌倉時代(13世紀)の日蓮上人の手紙には、「人の血を絞るが如くなる古酒」とあります。ですからその頃から古酒はあったし、江戸時代の食に関する事典「本朝食鑑・ほんちょうしょくかん」(1695)」は古酒の造り方に触れた上でこう書いています。「その三、四年を経た酒は、味が濃く、香りが良くてもっとも佳なり、六、七年から十年になるものは、味は薄く、気は厚め、色は深濃で、異香があってなお佳なり」と。

その古酒が明治期に入り、忽然と姿を消した最大の理由は、細菌により酒がしばしば腐ったからです。当時はまだ原因がつかめず、貴重な主食の米で造った酒が腐ってはたまらんと熟成をさけたのです。

また当時の愛酒家は、ひたすら酔うのが目的で、味よりも量が主眼でした。さらに酒税の影響も大きく、明治政府が課した「造石税」は、それで日清・日露の戦費をまかなったと言われるほど過酷なものでした。高い税金を払った上、酒が腐っては元も子もなかったのです。

以来、100年余、絶えて久しかった幻の古酒が、今、にわかに復活。各社自慢の3年〜5年古酒やさらには10年、20年ものまで登場して来ました。ようやく、日本酒本来の姿にもどってきたようです。

古酒には、大きくふたつのタイプがあって、ひとつは、「濃熟型・のうじゅくがた」。これは純米酒や本醸造酒を常温(15〜25゜C程度)で熟成させるものです。変化が大きく、年を経るごとに、赤みを帯びた濃い褐色を示すのが特徴です。香りは濃醇でまろやかな酒になります。

もうひとつは「淡熟型・たんじゅくがた」。こちらは米を極限まで磨き、雑味を取り除いて醸した吟醸酒を低温(およそ15゜C以下)で貯蔵熟成させます。劇的変化は少ないですが、吟醸酒の形や味を残しながら、ゆっくり味に深みが増してゆきます。ふたつの型の中間的な特徴を持つ「中間型」もあります。


◆貴醸酒
貴醸酒(きじょうしゅ)とは、酒で酒を仕込むというユニークな方法で造られたお酒です。豊かで甘味のある香りが、ゆっくりと立ち上がる。含むとシルクのように滑らかで、上品な甘味が広がる。とても高貴な甘さと言えるでしょう。余韻も長く、ほんのり甘酸っぱい心地よさを口中に残します。

また貴醸酒は、熟成させることで、深く複雑な味に仕上がっていきます。よりまろやかに、より深い味わいに、それはよく、貴腐ワインと比較されます。貴醸酒の甘み成分には、貴腐ワインと同じ成分が含まれているからです。

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